SS 「両者、反則」

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SS、「両者、反則」です。
上官・部下で革命中です。
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両者、反則                   上官・部下
 
堂上は誰もいない事務室で一人書類に向かっていた。
だが、ちっとも集中出来ず、さっきから書類の山は少しも減っていない。
 
理由は分かっている。
今日、郁達は同期の飲み会があり、それに参加している。
手塚と柴崎も一緒の筈なので、安心は安心だが、それでも気に掛かるものは気に掛かる。
 
堂上は机を片付け始めた。
このまま書類に向かっていても、仕事が捗らない事は明白だ。
だったら、とっとと帰った方が賢明だ。
……ひょっとしたら、柴崎あたりから回収要請が来るかもしれないし、な。
 
 
寮の食堂で夕食を食べ、風呂も済ませた堂上は自室に戻った。
テーブルの上に携帯を置き、少し迷ってから冷蔵庫からビールを一本取り出した。
もし、回収要請が来たとしても、ビール一本位なら堂上にとってはなんてことのない量だ。
郁を迎えに行って、背負って帰って来るのに何の支障もないだろう。
 
テレビをニュースのチャンネルに合わせ、眺めながらビールを飲む。
堂上がビールの最後の一口を飲み干した時、まるで、タイミングを計ったかの様に、携帯がメールの受信を知らせた。
 
堂上がすぐさま携帯を開く。
それは案の定、柴崎からだった。
 
『笠原が今落ちました。
回収に来て頂ければ助かるのですが』
 
堂上は何の躊躇もなく、すぐに返信を打ち始めた。
 
『わかった。すぐに行く』
 
堂上は送信ボタンを押すと、すぐに立ち上がり、部屋を後にした。
 
 
柴崎の携帯がメールの受信を知らせた。
柴崎が堂上にメールを送信してから、まだものの30秒位しか経っていない。
「速攻ね」
柴崎が微笑しながら、携帯を開く。
 
柴崎の予想通り、そこにはすぐに行く、との文面があった。
「ひょっとして、堂上二正か?」
柴崎の横から問い掛けたのは手塚だ。
二人の正面には郁がテーブルに突っ伏して、すやすやと眠っている。
 
「そうよ」
「堂上二正にわざわざ迷惑掛けなくても、俺が連れて帰るのに」
特殊部隊の飲み会でもないのに、堂上に迎えに来てもらうのを申し訳なく思い、手塚がこぼす。
 
「あら、何言ってんの?あんたはこの後、あたしともう一軒行くのよ。それに大体、迷惑だと思ってるんだったら、堂上教官だって断るでしょうよ。あんたもあたしも一緒だっていうのは堂上教官も知ってるんだから」
柴崎が澄ました顔で、さも当然の様に答える。
 
「……わかった」
手塚は、最初からそのつもりだったのか?という言葉は言わずに呑み込んだ。
 
今日は同期15人程で飲みに来ていたのだが、他のメンバーはもうこの店にはいない。
寮に帰った者や、二次会に行った者、色々だ。
柴崎は、笠原をもう少し休ませてから連れて帰るから、という理由で二次会に行くのを断っていた。手塚は笠原を運ぶ要員として、残っていた筈だった。
だが、どうやら、柴崎は最初から堂上に迎えを頼むつもりだったらしい。
 
「あんた達も忙しかったでしょうけど、あたしもずっと休みなしだったのよ?明日は久し振りに休めそうだし、今日はもうちょっと飲みたいのよ」
 
柴崎は業務部としての仕事が休みの日はあったが、実験情報部としての仕事が忙しく、休日、と言える程の休みは取っていない。
 
「ああ、付き合うよ」
手塚が頷く。
柴崎が神経を使うハードな仕事をこなしている事は手塚もよく分かっている。
少しでも柴崎の息抜きになるのなら、幸いだ。
 
座敷の扉が開いた。
「堂上教官、お疲れ様です」
柴崎がにこやかに声を掛ける。
手塚も頭を下げる。
 
「お前等だけか?」
「はい。この場はもう解散しましたので。会計も済んでます」
「そうか。……で、こいつは何杯飲んだんだ?」
堂上が熟睡している郁を見下ろし、尋ねる。
 
「チューハイを二杯です」
柴崎の答えに堂上が怪訝そうな顔をする。
確かに郁が酒に弱いのは充分過ぎる程分かってはいるが、いつもなら、チューハイ二杯程度ならここまで熟睡する事はない様に思う。
 
柴崎が軽く肩を竦める。
「あたしも二杯なら大丈夫だと思ったんですけど。やっぱり、色々疲れが溜まってたのかもしれないですね」
 
特殊部隊もついこの間、当麻を図書隊で保護していると開示されるまで、ろくに休みが取れなかった。
気が張りつめているので、疲れはあまり感じていなかった様だが、実際はかなり精神的にも肉体的にも疲労していたのだろう。
 
「……そうかもな。じゃあ、まあ帰るか」
堂上が郁の傍に身を屈める。
「おい、笠原。帰るぞ」
堂上が声を掛けるが、熟睡している郁からは返事がない。すっかり夢の中の様だ。
手塚が手伝い、郁を堂上の背中に乗せる。
郁は起きる様子もなく、堂上の背中で気持ち良さそうにすやすやと眠っている。
 
堂上が立ち上がる。
柴崎と手塚も立ち上がった。
座敷を出て、店員に帰る事を告げ、店を出る。
店を出た所で、柴崎が堂上の方にくるりと振り返って言った。
 
「じゃあ、堂上教官、笠原の事お願いしますね。あたし達はもう少し、飲んで行きますから」
「は!?お前がいなきゃ、部屋に入れんだろう!?」
「寮監には連絡入れておきますから、鍵借りて下さい。笠原はベッドに転がし込んで下さればいいですから」
「……」
 
「じゃあ、お願いしますね~。手塚、行くわよ」
柴崎はにっこり笑ってそう言うと、歩き出した。
手塚が申し訳なさそうに、堂上に頭を下げ、柴崎に続いた。
 
郁は相変わらず、堂上の背中で眠ったままだ。起きそうな様子はない。
「……仕方ない。帰るか」
堂上は力なく呟くと、郁を背負ったまま、歩き出した。
 
熟睡している郁は、今日は寝言を言う事もなかった。
それは、堂上にとって幸いだった。
当麻の案件が片付く迄は、と、郁への溢れだしそうな想いを必死で抑えている現状の今、いつもの様に耳元で堂上教官、と囁かれたら、箍が外れそうで怖かった。
 
基地に辿りつき、寮に入り、女子寮の寮監に声を掛ける。
「ああ、堂上君、お疲れ様。柴崎さんからは聞いてるわ。はい、これ、鍵ね」
「……ついて来なくてもいいんですか?」
「この時間、電話掛かってくる事多いから、席外したくないのよ。堂上君の事、信用してるから。柴崎さんもそれで問題ない、って言ってたし」
「……わかりました」
 
寮監から鍵を受け取り、部屋に向かって歩き出す。
途中、何人かと行き会うが、皆、慣れたもので、スルーである。
 
郁と柴崎の部屋に着き、貸してもらった合鍵でドアを開ける。
郁のベッドの方に行き、布団を捲ると、郁をベッドに転がし込む。
いきなり堂上の背中から離され、ベッドに転がされた郁は、何かを探す様に手を伸ばし、その手が宙をさまよう。
そして、その手が堂上に行き当たった。
郁の手は堂上の肩を掴み、とても寝ているとは思えない力で堂上を引き寄せた。
 
「うわっ」
元々不安定な体勢だった事もあったし、まさか郁がそんな事をするとは思ってもいなかった堂上は、完全に不意を衝かれ、郁のベッドに倒れ込んだ。
 
「おいっ」
「……きょーかん」
郁はそう呟くと、焦る堂上の首に両手を巻きつけた。
完全に抱きつかれた形になる。
「きょーかん……きです」
「!!」
 
やがて、郁の寝息が規則正しくなり、堂上の首に巻き付いた腕からも力が抜けたのが分かった。
堂上は郁の手をそっと首から外し、起き上がった。
 
堂上の方も激しく襲ってきた、自分も郁を力一杯抱き締めたい、という衝動をようやく強引にねじ伏せた所だった。
そして、すやすやと眠っている郁に恨みがましい視線を向ける。
 
人をベッドに引き摺り込んで……、その上、好きだ、とかなんとか言わなかったか!?
……いくらなんでも、お前、それは反則だろう。
 
力一杯、郁を抱き締め、俺もお前が好きだ、そう言いたい衝動を抑えるのはかなりの自制心が必要だった。
自制心の限界ラインを、また更新した事はまず間違いない。
……お前は俺の自制心の限界を一体どこまで引き上げる気なんだ?
 
若干、希望的観測が入っているかもしれないが、郁が自分と同じ気持ちを持っている、という事を堂上はほぼ確信している。
今、当麻の事件の真っ最中で、この案件が解決する迄は動けない。
堂上がそう思い、郁に対する気持ちを必死で堪えているのと同じ様に、ひょっとしたら、郁もまた、堂上に対する想いを抑えようと必死なのかもしれない。
堂上はそう思い当たり、郁に対し、愛おしい気持ちがまた溢れだしそうになる。
 
堂上は郁の髪の毛を優しくかきわけると、郁の額にそっと唇を落とした。
 
……今のは、俺も反則か。
 
だが、額で我慢した事を褒めてもらいたい位だ、と堂上は思う。
この案件が片付いたら、その時は額では済まさないからな、覚悟してろよ。
堂上は心の中で呟くと、郁に布団を掛け、部屋を後にした。
 
 
 
  1. 2012/05/16(水) 07:00:00|
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