SS「闇鍋と散歩」 後編

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SS「闇鍋と散歩」後編です。


 闇鍋と散歩   後編  上官・部下


「も~!大丈夫れすってば~」
郁の口調が怪しくなってきた。
やっぱりか、と堂上が眉間を押さえる。

「お前、もう部屋帰れ」
「え~!?なんでですか~?」
「お前が酔っ払ってるからだ」
「酔ってません~」
「酔ってるだろうが!完全に!」

郁がむうっと口を尖らせる。
「だから、酔ってません~」
平行線の言い合いが続く。
その言い合いを、小牧は楽しそうに見ている。
手塚は呆れながらもある意味感心していた。あれっぽっちの酒であんなに酔えるなんて、何て経済的な奴だ、と。

「何だ、お前等?何騒いでんだ?」
進藤がやってきた。
小牧が進藤に事情を説明する。

「あたし、酔ってなんかないのに、堂上教官が部屋に帰れ、って言うんれす~。進藤一正からも堂上教官に言ってくらさい~」
郁が進藤に訴えかける。
「……成程。立派な酔っ払いだな」
「でしょう?」
堂上が溜息を吐く。

「酔い醒ましに外連れて行ってやったらどうだ?」
進藤の提案に郁がまた膨れる。
「あたしは酔ってなんかいないんれす~!」

そこへ、小牧が口を挟んだ。
「笠原さん、酔い醒ましじゃなくってさ、散歩に行ってきたらどう?」
「……さんぽ?」
郁が首を傾げる。
「そう、夜の散歩。堂上と行ってきたら?」

郁が満面の笑みで答える。
「堂上教官と、さんぽ、嬉しいれす」

名前付きで、おまけにあまりにストレートな郁の言葉に、思わず堂上は絶句した。

恐らくはまだ郁自身ですら、はっきりと自覚していない筈の想い。
その気持ちがダダ漏れになっている郁の言葉に、小牧を始め、聞いていた数人が吹き出した。

「ほら、堂上、行ってやれ!」
笑いを噛み殺しながら進藤が堂上を促す。
「……」

今、二人で出て行けば、格好の酒の肴になる事は間違いない。
が、郁は部屋に戻るつもりはなさそうだし、一人で散歩に出すつもりは勿論ない。
……くそっ!
堂上は郁がさっき間違えたグラスを掴むと、残っていた日本酒を一気に飲み干した。
そして、立ち上がる。

「笠原、行くぞ」
「は~い」
郁が嬉しそうに立ち上がって、堂上について行く。

二人が出て行った後、進藤が苦笑しながら口を開く。
「全く、じれってえなあ~!おい、小牧。あいつらまだ時間掛かりそうなのか?」
「そうですね。まだ暫くは掛かるんじゃないですかね?」
小牧も苦笑いで答える。

なにしろ、二人ともまだ自分の気持ちすら認めていないのだ。
周りにはバレバレだというのに。
特殊部隊内で唯一気付いていなかった手塚でさえ、近頃は察している様子が見える。

「さっさとくっついちまえばいいのによ」
「まあ、もうちょっとそっとしてやって下さいよ」

そう、きっともう少しだ。
郁はもうじき、堂上への気持ちを自覚するだろう。
堂上も自分の気持ちに蓋をするのは、そろそろ限界の筈だ。
小牧密かにそう確信していた。

「仕方ねえなあ」
進藤は再び苦笑すると、今度は大きな声を張り上げた。
「よ~し、闇鍋二巡目、行くぞ~!」

「風が気持ちいいですね~」
「ああ、ホントだな。お前寒くないか?」
「大丈夫です~」

堂上と郁は、宿舎から出て少しだけ歩いた所にあるベンチに座っていた。
「ほら、お茶だ」
宿舎を出る時に自販機で買ったペットボトルのお茶を堂上が郁に渡す。
「ありがとうございます~」

「きょーかん、星がすっごく綺麗です~!」
堂上が空を見上げると、無数の星が煌めいている。
「ああ。綺麗だな」
堂上も目を細める。
ゆっくり星空を眺めるなんて、随分久方振りの事だった。
星空を眺めつつ、二人は他愛ない話をする。

風に当たり、冷たいお茶も飲んだので、郁の酔いは大分醒めてきていた。
「どうだ?酔いは醒めてきたか?」
「あ、はい!もう大丈夫です」
郁の答えを聞いて堂上が笑い出した。
何故堂上が笑ったのか分からず、郁が首を傾げる。

「いや、本当に酔い醒めたみたいだな。お前、さっきずっと自分は酔ってない、って言い張ってたろ?覚えてるか?」
「……すいません。覚えてます……」
郁が身を縮こまらせる。

確かに酔ってない、と言い張っていた様な記憶はある。
……あたし、何か他に変な事言ってないよね?
郁が記憶を辿ろうとした時、堂上が郁に訊いた。
「どうする?そろそろ戻るか?」

「あ……、あの、もう少し風に当たってたいかなあ、って」
嘘だ。もう酔いは殆ど醒めている。
ただ、もう少しだけ堂上とこのままこうして、星を眺めながら話をしていたかっただけだ。
郁は堂上の方をちらりと窺った。

「そうか、分かった」
あっさりとそう答えた堂上は、また星空を見上げたが、その口元が微かに微笑んでいる様に見えた。

常はあまり見る事のない堂上のその優しい表情に、郁の胸はキュン、となる。
そして、堂上教官て星好きなのかなあ?と見当違いの事を郁は考えた。
星好きなんですか?と郁が堂上に尋ねようとした時、ぐう~っ、という音が辺りに響き渡った。

堂上が吹き出す。
郁のお腹が鳴った音である。
郁は恥ずかしさで真っ赤になった。
何でこんな時に鳴るか!?しかもあんなに大きな音で!

「腹減ったのか?やっぱり戻って何か食うか?」
堂上が笑いながら言う。
確かにお腹は減っている。
……もう少し、こうしていたかったのになあ~と郁は未練がましく思ったが、考えてみれば堂上も少ししか食べていない。堂上もお腹が減っているかもしれない。
郁は頷いた。

「はい。あ、でもあの鍋をお腹いっぱいになるまで食べたら、それはそれで気分悪くなっちゃうかも……」
「ああ、それなら大丈夫だ。進藤一正がまともな食べ物も用意してたと思う。それに大体、あの闇鍋はもうとっくになくなってるだろ」
「え?そうなんですか?進藤一正、マメですね~」
「ああ、全くだ。そのマメさをもう少し事務仕事に生かして欲しいもんだがな」
堂上が苦々しい顔で頷く。
普段何かと事務仕事を押し付けられている身としては、つい愚痴のひとつも言いたくなる。
郁がクスクス笑う。

「じゃあ、戻るか」
「はい」
二人は並んで宿舎に向かって歩き出した。

宿舎では堂上と郁が何分で戻ってくるか、という賭けが行われていた事は言うまでもない。





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かっちゃんさまより頂いたリクエストは……

「タスクフォース主催・大闇鍋大会♪in奥多摩」
でした!
夫婦前なら上官・部下でも恋人でもOK、との事でしたので、上官・部下で書かせて頂きました!
大、じゃなく小闇鍋大会になっちゃいましたが(汗)
かっちゃんさま、遅くなってしまってすいませんでした!
楽しく書かせて頂きました♪
リクエストして頂いてありがとうございました!!

みなさま、感想など一言でも頂けたら、とっても嬉しいです♪

  1. 2012/03/10(土) 08:58:04|
  2. 図書館SS
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