SS 「やっぱり」

ご訪問ありがとうございます!

なんとか間に合った……!
予定通りにいけば、今頃はスキー場にいる筈、です♪

今日のSSは一周年記念第七弾です。
天月さまよりリクエストして頂きました。

いつもは後にリク内容書くんですけど、今回は先に。
リクエストして頂いた内容は……
SS「もっと」の実際に班編成を変えたバージョンを書いて下さい
……との事でした。

というわけで、「もっと」の別バージョンになります。
「やっぱり」です。
堂上教官と郁ちゃんが救護室から帰ってきた所から始まります。

続きからどうぞ!


やっぱり        (「もっと」の別バージョン)   恋人期間
 
救護室から戻った後も相変わらず堂上の顔色は悪い。
図書窃盗犯の引き渡しなどは小牧と手塚でやってくれていたので、郁は堂上から渡された報告書に記入しつつも堂上の様子を窺う。
 
堂上は何か考え込んでいる様子に見える。
郁は自分の腕の痛みなんかよりも堂上の様子の方がよっぽど気に掛かる。
教官、どうしたんだろ……?
 
やがて、終業の時刻になった。
郁は堂上の様子が気になりながらも、なんとか日報を書き上げ、堂上に提出した。
堂上は日報に目を通すと、押印した。
 
「笠原、腕の方は大丈夫か?」
「あ、はい!大丈夫です。大した事ありません」
「そうか、良かった。よし、上がっていいぞ。ゆっくり休め」
「はい。……お先に失礼します」
 
郁は何故か堂上の事が気に掛かり、後ろ髪を引かれる思いで、事務室を後にした。
 
堂上は機械的に書類を処理しながらもずっと何かを考え込んでいた。
そして、やがて顔を上げると、少し逡巡する様子を見せたが、立ち上がり、隊長室へと足を向けた。
 
翌日、朝礼時に玄田が唐突に発表した事に対して、特殊部隊中がどよめいた。
 
それは、試験的に班のメンバーを入れ替える、というものだった。
堂上班からは郁が他班に行く事になっていた。
郁を合わせて、合計7名位がそれぞれ班を異動する事になる。
 
「なんで!?」
郁が激しく動揺している。
 
「今回の措置はあくまで試験的だ。まだ期間ははっきり決めていないが、試験期間が終わったら、改めて班編成を発表する!試験期間は、今日この後すぐからだ。全員手分けして、机の移動を始めろ!」
 
玄田はそう言い放つと、隊長室へと入って行った。
まだ事務室内のざわめきは収まらない。
堂上班も例外ではない。
 
「どうして、こんないきなり……!」
郁はまだ動揺が収まらず、半ばパニックを起こしかけている。
堂上も知らされてなかったのか、顔色を変え、凍った様に立ち尽くしている。
 
「笠原さん、落ち着いて。隊長は試験的に、って言ってただろ。このまま班が変わると決まった訳じゃないから」
小牧が郁を落ち着かせる為に、静かな声で郁に言い聞かせる。
「でも……!」
 
「……とにかく、机を移動させようか。隊長がああ言った以上、暫くは仕方ないよ」
周りを見回すと、既に移動が発表された隊員の机の移動が始まっていた。
「……はい」
郁は納得などとても出来ないが、確かに玄田がああ言った以上、小牧の言う通り、とにかく今日から暫くは、班を移動するしかない。
 
郁が縋る様な目で堂上を見たが、堂上は青ざめた顔で唇を噛みしめていた。
そんな堂上の顔を見て、郁は涙が出そうになったが、なんとか堪えた。
 
「堂上」
小牧に声を掛けられて、凍りついていた堂上が漸く動いた。
「……ああ」
「机、移動させようか」
「……わかった」
 
郁が異動する班は関口班だった。
堂上と小牧が机を運び、手塚が机上の備品を運ぶ。
郁はその後ろからとぼとぼと椅子を転がしながら歩いて行く。
 
机の移動が終わり、堂上が関口班の班長である関口に頭を下げていた。
郁も慌てて、堂上の傍に行き、一緒に頭を下げる。
「おお、笠原、よろしくな!堂上、笠原は確かに預かった。心配するな」
堂上はもう一度、頭を下げた。
「よろしくお願いします」
 
そして、堂上は戻る時に郁に小声で囁いた。
「……急な事で戸惑いもあるだろうが……。しっかりやれよ。夜に連絡するから」
郁はこくんと頷いた。
 
そして、その日の業務が始まった。
いきなり違う班に放り込まれて、戸惑う事も多かったが、業務内容は普段と変わる訳でもないし、違う班とはいえ、元々同じ特殊部隊の仲間である。
郁は少々戸惑いながらも懸命に業務をこなした。
 
慣れない班で緊張していたのだろう、一日の業務が終わる頃には、郁はぐったりとしていた。
なんとか日報を書き上げ、関口に提出する。
提出する相手が堂上でない事に、郁はいいようのない寂しさを覚えたが、懸命に堪える。
「よし、上がっていいぞ。お疲れさん」
関口が労わる様に、郁に優しく声を掛けた。
 
「お先に失礼します」
郁は一礼すると、事務室を出る為に歩き出す。
目は自然と堂上班の方へ向く。
堂上はまだ机に向かっていた。
小牧と手塚の姿はもう見えない。
ひとつ欠けている机を見て、また胸が締め付けられる様に痛んだ。
また涙が出そうになってきたので、郁は慌てて事務室から出て行った。
 
夜、郁の携帯がメールの着信を知らせた。
携帯が鳴るのを今か今かと待ち構えていた郁は、すぐさま携帯を開く。
期待していた通り、メールは堂上からだった。
『出られるか?』
『はい、すぐに行きます』
郁が急いでメールを返信する。
 
郁がロビーへ行くと、堂上は既に待っていた。
堂上の顔を見ると、また涙が出そうになる。
堂上は黙って郁の手を取る。
いつもの場所に辿り着いた途端、堂上が郁を抱き締めた。
「すまん。俺のせいだ」
「え?」
 
堂上が辛そうに口を開く。
「昨日……、お前があの男にナイフを振りかざされて、お前の腕から血が流れた。……俺はそれを見た瞬間、頭が真っ白になった。正直、少し記憶が飛んでいる。あの男を投げ飛ばした事はなんとか記憶にあるが、気がついたら、小牧と手塚があの男を取り押さえていた」
「……教官はあたしが腕を斬られた後、すぐに飛び込んできてくれて、ナイフを叩き落として、あの男を投げ飛ばしてくれました!」
「……俺は頭が真っ白になって記憶が飛んだ事が怖い」
「え?」
「今回は間違った行動を取らなかったが、もし……適正な判断が出来ず、間違った行動を取ったら……。そして、それが原因でお前達に危険が及んだら、と思うと堪らなく怖くなった」
 
今迄、自分では公正な判断が出来ると思っていた。
だが、現実に昨日は郁が腕を切りつけられているのを見て、頭が真っ白になって意識が飛んだ。
飛び込んで、ナイフを叩き落として男を投げ飛ばしたのは、殆ど無意識の行動だ。
 
「……」
昨日、堂上の様子がおかしかったのはそれが原因だったのか。
 
「それで、昨日隊長に相談した」
「え?じゃあ、堂上教官が班を変える様に頼んだんですか!?」
「いや。俺は昨日あった事を話して、このままお前の上官でいていいものか、と相談しただけだ。……隊長はその時は特に何も言わなかったんだが……」
 
そうしたら、今日の朝、いきなりの班の異動だった。
正直、堂上もかなり動揺した。
やはり玄田も、堂上と郁の班を変えた方がいい、と判断した、という事なのだろうか。
 
「……すまん。俺のせいだ」
堂上がもう一度同じ言葉を繰り返し、郁を抱き締める手に力を込める。
 
郁は堂上を責める事など出来ない。
堂上が、判断を誤るのではないか、と脅える。
それは、堂上がそれだけ郁の事を深く思っている、という事に他ならない。
それに元をただせば……。
 
「……あたしが、昨日ナイフを躱せてたら……!」
一瞬、投げつけられた鞄の方に意識をとられた。
ちゃんとあの男から目を離さなければ、ナイフを躱せた筈だ。
あの時、ナイフを躱せさえしていたら、こんな事態にはならなかった。
 
「お前は悪くない」
「あたし、もっともっと鍛えますから!もっともっと強くなります!だから……!あたしは堂上教官の部下でいたいです!!」
 
「ああ。俺も、もっともっと強くなる。……今日一日だけでも十分思い知らされた。俺にはお前が必要だ。プライベートではもちろんの事だが、仕事の上でも、お前はかけがえのない部下だ」
たった一日班を離されただけで、その事を痛い程感じた。
確かに昨日はひどく不安を感じた。郁と班を離れた方がいいのでは、という考えが頭をよぎった事も事実だ。
だが、こうして実際に班を離されてみると、恋人としては勿論の事、部下としての郁の存在が自分にとって、いかに大きいかを痛感した。
 
「教官……!」
郁が堂上にしがみつく。
堂上は郁をさらに強く抱き締める。
 
「とにかく、隊長の言う試験期間が終わる迄は、このまま行くしかない」
郁だけが班を入れ替わった訳ではない。他にも班を入れ替わった隊員がいる。
郁だけ、すぐに戻してくれ、という訳にもいかない。
 
郁はこくん、と頷いた後、不安そうに口を開く。
「もし、試験期間が終わって、正式に班を変える、って言われたら……」
「……」
堂上にもその不安はある。
玄田の真意はまだわからない。
本当に堂上と郁の班を変えた方がいい、と玄田が判断したなら、そういう結果になる事も有り得るだろう。
 
「いたずらに不安がっていても仕方がない。とにかく、日々の業務を精一杯こなそう」
堂上が郁だけでなく、自分自身にも言い聞かせる様に言った。
 
そうして、“試験期間”は続いた。
堂上も郁もそれぞれ精一杯業務をこなしてはいたが、精神的にかなり疲弊しているのは傍目からも明らかだった。
 
そして、一週間が経った日の課業後、堂上が隊長室へ呼ばれた。
堂上はやや緊張した面持ちで隊長室へと入って行った。
 
「関口からの報告書だ」
玄田は前振りなしで、いきなり書類を取り出し、読み上げ始めた。
 
「業務的には特に大きな問題はなかったが、普段堂上班にいる時の笠原の良さは全く出ていない。よって、笠原は堂上班に所属している方がその能力を発揮出来ると思われる」
 
玄田が報告書を机に置く。
「ここからは報告書には書いてないがな、関口が言ってたぞ。笠原が気の毒でもう見てられない、早く堂上班に戻してやってくれ、ってな」
「……」
「どうする?堂上」
「笠原を堂上班に戻して下さい」
堂上が玄田を真っ直ぐに見つめて言った。
その揺るぎない瞳を見て、玄田がニヤリと笑った。
 
「よし、わかった。試験期間は今日で終わりだ。明日から元に戻す」
玄田のその言葉を聞いて、堂上が大きく安堵の息を吐いた。
 
「もうそろそろ限界だろう。小牧からもつつかれたしな」
玄田の言葉に堂上は一瞬驚いた。
小牧は今回堂上に一切何も言わなかったのだが、どうやら裏では動いていたらしい。
堂上が苦笑する。
「……ご迷惑をおかけしました」
「まあ、笠原には可哀想な思いさせたけどな。そのフォローはお前がきっちりやっとけよ」
「はい」
「全員、元通りに戻すんですか?」
ふと気になって、堂上が玄田に尋ねた。
 
「いや、二人班を入れ替える」
入れ替わる隊員の名前を聞いて、堂上は納得した。
問題がある、という程ではなかったが、どことなしに今迄の班に馴染んでいない雰囲気があった二人だ。
今回班を入れ替えてみた所、どうもその方が巧く機能している様だ、との事だ。
 
玄田がニヤリと笑う。
「今回の措置は実はあいつらが本命だった。お前と笠原の班を変える気なんて最初からこれっぽっちもなかった」
……あんなに頭を悩ませたのに。堂上は多少恨みがましく思うが、今回の事はさすがに文句を言えた義理ではない。
弱音を吐いた堂上が原因だ。
今回班を入れ換わる事になった隊員の件は玄田の中で懸案事項だったのだろう。
そこへ堂上が今回の件を相談してきたので、まとめてやってしまえ、とばかりに少々荒っぽい今回の措置となったのだろう。
 
堂上と郁にとっては辛い一週間となったが、もう堂上に迷いはない。
自分が進むべき道筋がはっきりと見えた。
 
玄田が立ちあがり、堂上の背中を勢いよく叩いた。
「心配するな!お前なら意識が飛んでも、間違った行動は取らん。無意識、ってのは案外本人に忠実なもんだ。自分を信じろ!」
「……はい!」
「よし、だったらとっとと帰って、笠原に報告してやれ!」
「はい!」
 
堂上は手早く帰り支度を済ませ、寮へと急いだ。
部屋に戻る時間も惜しい。
寮へ辿り着く前に郁にメールを入れる。
 
堂上がロビーに辿り着いたら、すぐに郁がロビーへやって来た。
堂上の表情を見て、察したのか、郁の瞳が輝く。
郁が堂上のもとへ駆け寄って来た。
「教官!」
「取り敢えず外に出よう」
堂上が郁の手を取り、寮の外に出る。
 
「さっき、隊長に呼ばれた」
「隊長はなんて……」
 
「明日から元通りだ」
堂上が微笑みながら言った。
「良かったあ~」
ロビーに立っていた堂上の表情を見て、多分大丈夫だろうとは思ってはいたが、堂上から直接その言葉を聞いて、郁はやっと心の底から安堵する事が出来た。
嬉しさに涙が滲む。
 
「辛い思いさせたな。郁、すまなかった」
郁がふるふると首を振る。
 
確かにこの一週間、とても辛かった。
決して関口班が嫌だった訳ではない。
班長の関口を始め、班員たちも郁にすごく良くしてくれた。
 
だが、でも、やっぱり。
 
「あたしはこれからもずっと堂上教官の部下でいたいです」
「俺もそうだ」
 
堂上が郁を抱き締めた。
もう、迷わない。
 
引き寄せられる様に二人の唇が重なる。
そして、長い時間二人の影は離れなかった。






実際に班編成を変えられちゃったバージョンでした。
天月さま、リクエストして頂いてありがとうございました!
遅くなってしまって、すみませんでした。

SSアップするの、結構久し振りなので、ちょっと緊張してます。
みなさま、感想などぜひお聞かせ下さい~!

スキーからは月曜日に帰ってきます。
次回は拍手お礼ですが、水曜位になるかな?



  1. 2012/02/04(土) 07:00:00|
  2. 図書館SS
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