SS 「I LOVE YOU」

ご訪問ありがとうございます!

今日は10月19日!!
堂郁の日です!
今日はもうひとつ記事アップしますので、そちらもよろしくお願いします。

SS「I LOVE YOU」です。
上官・部下で革命中位です。

続きからどうぞ!



 I LOVE YOU              上官・部下
 
堂上が酒とツマミを仕入れにコンビニに入った所、店内に郁が居るのに気が付いた。
「笠原」
「堂上教官!」
「一人か?」
「あ、はい。柴崎にジャンケンで負けちゃって。お菓子の買い出しです」
成程、郁の買い物カゴには既に何種類かのお菓子が入っていた。
 
思いがけず、堂上に逢えて郁は嬉しさを隠し切れず、笑顔になる。
「教官は、お酒ですか?」
「ああ。それと何か酒の肴になるもの、だ」
堂上は適当にナッツ類や燻製などをカゴに放り込む。
 
ふと堂上が郁の方を見ると、郁がなにやら真剣な顔つきでお菓子を両手に取り、見比べている。
その様子を見て堂上が思わず忍び笑いを漏らす。
「お前……。そんな真剣な顔して何やってんだ?」
「……このお菓子、この味が一番好きなんですけど、こっちの期間限定の味も気になっちゃって……」
「両方買えばいいだろ?」
「そうなんですけど、でも、同じ種類のお菓子をふたつ買うより、違う種類のもの買った方がいいかな、とか……」
 
たかだかお菓子のひとつやふたつで真剣に思い悩んでいる郁の事が、このうえなく可愛らしく思えて、堂上の口元がほころぶ。
そして、郁の片手からお菓子をひとつ取り上げる。
「じゃあ、こっちは俺が買ってやる。お前はあとひとつ、違う種類の奴を選べ。俺は酒買って来る」
「ええ!?そんな、いいです」
郁が慌てて言うが、堂上は郁から取り上げたお菓子をさっさと自分のカゴに放り込み、酒類のコーナーに歩いて行ってしまった。
 
どうしようかと悩んだが、取り敢えず言われた通りにお菓子をもうひとつ選んだ。
郁がレジに向かうと、堂上が会計を済ませた所だった。
 
郁が会計を済ませ、店を出ると、出た所で堂上が待っていてくれた。
「ほら」
堂上が自分のレジ袋からさっきのお菓子を取りだし、郁に差し出してくれた。
 
「すいません……。ホントにいいんですか?」
「ああ」
「ありがとうございます!」
恐縮していた郁だが、堂上が笑っているので、郁も笑顔でお礼を言った。
 
そして、自然に二人並んで歩き出す。
他愛もない事を話しながら、歩く。
 
普段の自分よりも、かなりゆっくりとしたペースで歩いているのに堂上は気が付いた。
無意識の内に、郁と歩くこの時間を少しでも引き延ばしたい、と思ったのだろう。
 
他愛もない会話にも笑顔を見せる郁が愛おしくて仕方がない。
ついこの間まで、こんな気持ちは箱に閉じ込められていた筈なのに。
自分がどうやってこの気持ちを箱に閉じ込めている事が出来たのかが、もうわからない。
 
抑えるつもりがなくなった、この想い。
だが、状況が変わって今は抑えざるを得ない。
この状況になってから、何度自分の自制心の限界ラインを更新しただろう。
今も、勤務時間外に二人で歩いている、ただそれだけなのに、何度郁を思いきり抱きしめたい、という衝動を抑え込んだのかわからない程だ。
 
襲ってきた何度目かのその衝動を抑え込む為に、堂上は郁から目を逸らし、空を見上げた。
綺麗な月が目に入った。
夕方に少し雨が降った。
だが、今は綺麗に晴れていて、雲ひとつない。
雨が降ったせいで、空気が綺麗になったのか、月がくっきり見えている。
 
堂上の頭にふと、あるエピソードがよぎった。
夏目漱石が教師時代に『I LOVE YOU』を『月が綺麗ですね』と、訳したという。
出典がはっきりせず、未だ真偽が明らかでないのにも関わらず、かなり有名なエピソードだ。
 
堂上が立ち止まり、そしてその口が思わず開いた。
きっと、郁には伝わらないだろう、半ばそう思いながら。
 
「笠原。……月が綺麗だな」
 
郁は堂上のその言葉を聞いて一瞬、頭が真っ白になった。
郁もまたそのエピソードを知っていた。
高校時代に国語の授業中の雑談で、教師が教えてくれた。
異性に月が綺麗ですね、と言われたらそんな意味が込められてるかもしれないぞ、とその教師は笑いながら話していた。
郁はそのエピソードがいたく気に入って、あたしもいつか言われてみたいなあ、などと思っていたものだ。
 
それを、まさか堂上の口から聞く事になるとは!
郁が顔を真っ赤にさせて、堂上の方を窺うと、堂上は真っ直ぐに月を見上げたままだ。
 
郁は必死に頭の中で考えを巡らす。
お、落ち着け!
教官がその意味で言った、とは限らないし!ていうかむしろその可能性の方が低いし!
ただ単に本当に月が綺麗、って思って言った可能性の方がずっと高いし、きっとそうに決まってる。
実際、今日の月は本当にとっても綺麗だ。
……だけど、と郁の中でもうひとつの声がする。
郁ですら知っていたエピソードだ。
確か、かなり有名なエピソードだ、とも聞いた覚えがある。
 
それを、そんな有名なエピソードを郁ならばともかく、堂上が知らない、などという事が有り得るのだろうか?
知っていて、言ったとしたら……?
有り得ない、と思う一方、もしかしたら……という思いが郁の中でぐるぐる回る。
 
堂上は「本当ですね~、とっても綺麗!」と郁が極普通に返答する事を予想していたが、意に反して郁の返答はない。
堂上が怪訝に思い、そっと郁の方を窺うと、郁は真っ赤な顔で俯いている。
……まさか、知っていたのか?
堂上を軽い動揺が襲う。
 
堂上は視線を月に戻し、郁がなんと答えるのかを密かに緊張しながら待った。
やがて、郁が顔を上げる気配がした。
 
「あたしも、そう思います」
郁が赤い顔のまま、月を見つめながら言った。
郁が混乱する頭をなんとか必死にフル回転させて出した返事だ。
 
堂上がただ単に「月が綺麗だ」と言っただけだとしても不自然ではなく、そして、万が一にもないだろうが、もしさっきの言葉に別の意味があったとしたら。
それに対しても郁の気持ちを告げる言葉として。
 
堂上もまた月を見つめながら、郁の言葉を聞いた。
……それは、
『俺はお前を愛している』
『あたしもです』
……そう解釈しても、いいのか?
 
「……そうか」
堂上はやっとそれだけ、言葉を絞り出した。
 
郁を抱き締めたい、その衝動はさっきよりも強く堂上を襲ってきた。
だが、郁が言った言葉の意味が堂上が解釈した通りだとしても。
今はまだその衝動に従う事は出来ない。
衝動のまま、郁を抱き締め、気持ちを告げる事が出来たらどんなに楽だろう、とは思うが。
 
堂上はかなり苦労して、その衝動を自制心で抑えた。
……また自制心の限界ラインを更新したな、これは。
堂上は自嘲するように心の中でこっそりと呟いた。
 
堂上はなんとか衝動をやり過ごし、まだ赤い顔をしている郁の頭をポンと叩く。
「帰るか」
「あ、はい!」
 
その後、堂上と何を話して寮まで帰ったのか郁はよく覚えていない。
別れ際に堂上が「おやすみ」と柔らかい表情で言ってくれた事は記憶に残っているけれど。
 
その夜、郁は堂上に買ってもらったお菓子をベッドで眺めながら、考えを巡らす。
買ってきた他のお菓子は柴崎と共有のものとしたが、堂上が買ってくれたそれだけはこっそりと隠しておいたのだ。
 
「笠原。……月が綺麗だな」
 
堂上の言った言葉。
それはそのままの意味なのか、それともその言葉には他の意味が籠められていたのか。
いくら考えても答えは出そうにない。
 
郁は諦めてお菓子を枕元に置いた。
そして、眠る為に目を閉じた。
 
郁はそのお菓子を賞味期限のギリギリまで、大事に大事に保管した。
 
 
 
  1. 2011/10/19(水) 00:00:00|
  2. 図書館SS
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1
<<堂郁の日&一周年!! | ホーム | 図書館で借りた本9月分>>

コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
  1. 2011/10/19(水) 00:46:34 |
  2. |
  3. #
  4. [ 編集 ]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://tosyokanrendezvous.blog100.fc2.com/tb.php/215-b4828bad
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)