SS 「運命」

ご訪問ありがとうございます!

今日は10月4日ですね。
堂上教官と郁ちゃんの出会いの日!

書き始めたのが遅くて、朝のアップは無理でした……。
でも一応書き上がったので、折角なのでこんな時間になっちゃいましたが、今日アップします。

SS「運命」です。上官・部下です。
続きからどうぞ!


  運命                 上官・部下
 
「万引きの汚名を着てまでこの本を守ろうとしたのは君だ」
そう言って、泣いている郁の頭を優しく叩いてくれたのは……。
 
……堂上教官!!
 
郁は勢いよくベッドに起き上がった。
……夢だ。
幸い叫び声は上げなかった様で、まだ夜明け前の暗い室内はシーンとしている。
良かった、声出なくて。郁はホッと息を吐く。
柴崎を起こしてしまった日には後が恐ろしい。
 
郁は枕元に置いてあった携帯で時間を確認する。
まだ4時半だ。
もう一眠り出来る、と郁はもう一度ベッドに横になった。
 
それにしても、久し振りにあの夢を見た。
そして、気付く。
ああ、今日は10月4日なんだ、と。
だから夢を見たんだ、と納得する。
あの日からもう7年も経ったんだ……。
 
考え出すと、眠れなくなる。
業務に差支えがあったらマズイ。
郁はもう一度眠る為に目を閉じた。
 
その日の業務を何事もなくこなし、郁はバディだった小牧と共に事務室へ戻った。
堂上と手塚はまだ帰って来ていない様だ。
特殊部隊においてはさほど珍しい事ではないが、何やら事務室内が騒がしい。
なんとはなしに聞いていると、どうやら、隊員の一人に彼女が出来たらしく、その隊員が
「彼女こそ俺の運命の相手だ!これぞ運命の出会いだ!!」
と散々惚気まくっているらしく、周りの隊員達からひやかしの声、独り身の隊員からは呪詛の声が上がっている。
 
日報を書き始めようとしていた郁が呟く。
「……運命の出会い、かあ」
完全に独り言のつもりだったが、小牧はしっかりと聞いていたらしい。
クスクスと笑いだす。
「あ~、でもあの人、何年か前にも同じ事言ってたよ?」
「ええ!?そうなんですか~」
郁は呆れると同時に少しがっかりする。
“運命の出会い”って言い切れるだなんて素敵だな、と一瞬感心したのに。
 
「でも……“運命の出会い”、って言うんなら、笠原さんこそまさに“運命の出会い”だったんじゃない?」
「……!な、何言ってるんですか!?」
郁の顔がさあっと赤く染まる。
小牧の言う郁の“運命の出会い”とは勿論堂上の事だろう。
勿論郁も先程“運命の出会い”という言葉を聞いた瞬間からその事が意識の中にちらついている。
今朝方に見た夢の影響もあるかもしれない。
もしや、小牧は今日が“その日”だという事を分かっていて、言ってるのだろうか?
 
動揺している郁に構わず、小牧が淡々と言葉を続ける。
「でも、笠原さん、あの件がなかったとしても、図書隊に入ってた?人生変えちゃうんだから、やっぱり“運命の出会い”なんじゃない?」
小牧にそう言われて、郁は考え込んだ。
 
確かに、あの件がなかったら、郁は図書隊には入っていないだろう。
あの日、あの書店に郁と堂上が居合わせた。そして、よりにもよって検閲が執行された。
それは確かに“運命の出会い”だったのかもしれない。
 
でも、その後、図書隊を志したのは郁の意志だ。
もちろん、王子さまと再会出来るかもしれない、という期待があった事は否定出来ないが、それだけが理由の全てではない。
あたしも本を守りたい、そう思ったからだ。
 
両親に反対されるだろう事はわかっていた。だから真実を話さないまま、図書隊に入る道を選んだ。
その郁の決心も、図書隊に入れた事も、特殊部隊に配属され堂上の部下になった事も、すべてが“運命”だと言われたら郁はなんだか納得出来ない。
“運命”という言葉だけで片付けられたくはない。
 
堂上と郁を出会わせてくれた“運命の出会い”には感謝している。
あれがすべての始まりだった。
でも、その後の事は。
自分の手で、意志で、選び取って来た……。そう思いたい。
 
“運命”それは、あらかじめ決まったものではなく、自分の力で切り拓いていくものであって欲しいし、そうでありたいと思う。
 
「確かにそうかもしれません……。でも、あたしは“決められた運命”は嫌です。自分の手で選び取っていきたいです。図書隊に入った事も自分の意志で選んだ事です」
小牧はにっこり笑った。
「そうだね。笠原さんなら、きっと“決められた運命”なんか蹴飛ばせると思うよ。自分で選んだ図書隊の道を後悔なんかしてないよね?」
郁は力強く頷いた。
「後悔なんか全くしていません!」
 
後悔どころか。
ここに、図書隊に、特殊部隊にいる事が。
そして、堂上の部下である事が郁の誇りだ。
 
「何を後悔してないんだ?」
突然後ろから声を掛けられて、驚きで郁は硬直する。
「ど、堂上教官!」
 
き、聞かれてた!?
いつから!?
いやいや、落ち着け。堂上は「何を後悔してないんだ?」と訊いた。
と、いう事は郁の「後悔なんか全くしていません!」という言葉しか聞いていない筈。
 
郁があわあわしている内に小牧があっさりと、堂上の疑問に答えた。
「図書隊に入った事だよ」
堂上が虚を衝かれた様な顔になる。
 
「だけどさ、笠原さん。大学の時、陸上で結果出してたんだよね?企業の陸上部とかから誘い来なかったの?」
「ない事はなかったみたいですけど。でも、あたしは図書隊に入りたい、って始めからずっと言っていたので」
誘ってくれた企業はいくつかあったらしいが、郁は詳しい話も聞かない内に全部断っていた。
図書隊に入りたい、という気持ちは全くぶれる事はなかった。
走る事は今でも好きだし、競技としての陸上も好きだった。
だが、郁の心は揺れる事すらなかった。
郁にとっての選択肢は図書隊に入る、という事しか存在しなかった。
 
「迷わなかったんだ?」
「はい。全く」
 
黙って郁と小牧のやり取りを聞いていた堂上が静かに席に座った。
机の上に置かれている卓上カレンダーに目が行った。
 
……ああ、今日は10月4日か。
 
堂上の口元が微かにほころんだ事に郁は気が付かなかった。
 
 
 
  1. 2011/10/04(火) 16:10:16|
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