SS 「大切な時間」

ご訪問、ありがとうございます。

なんだか、もうひとつ鼻と咳がすっきりしません。
ひょっとして、秋の花粉かな?
秋も調子悪い自覚はあるんですけど、時期がいつ位だったが、あんまり覚えてなくて(汗)
単なる風邪な事を願います……。

SS「大切な時間」です。夫婦期間のお話です。
続きからどうぞ!




大切な時間                    夫婦期間
 
郁は憂鬱な気持ちで夕食の準備をしていた。
溜息交じりに呟く。
……篤さん、怒ってるだろうなあ……。
 
今日は公休日だった。
堂上は班長会議があるので、午後から出勤している。
班長会議の後、夕方位まで書類を片付ける、と言っていたので、まだ事務室にいるのだろう。
 
事の発端はなんだっただろう……?
例によって大した事ではなかった筈だ。
ちょっとした行き違いから口論になった。
 
だが、今日は郁の方が悪い。
郁にもその自覚があった。
謝るきっかけを逃したまま、堂上は出勤して行った。
 
班長会議はもう終わっている筈だ。
夕方迄書類を片付ける、という事を聞いたのは喧嘩になる前だった。
だから、別に怒ってるから帰って来ない、という訳ではない。
それは理解出来てはいるが、ほんの少し不安になる。
 
会議は終わっている筈だから、メールでもしてみようか、と思ったものの、堂上の反応が怖くて、結局メールも出来ないままだ。
 
夕食の準備は終わり、後は仕上げだけだ。
リビングのソファに腰を下ろしたものの、郁の心は落ち着かない。
雑誌に手を伸ばしたりしてみるが、全く頭に入って来ない。
郁は諦めて、雑誌から手を離す。
 
堂上の帰りを待ちわびながらも、帰って来た堂上の態度を想像すると怖い。
……まだ、怒ってるよね、きっと。
口きいてくれなかったら、どうしよう。
……というか、ちゃんと帰って来てくれるよね?
 
郁の思考がぐるぐるし始めた頃、玄関の鍵を開ける音がした。
郁は一瞬、ビクッと体を竦めたが、すぐに、ソファから慌てて立ち上がると、玄関へとすっ飛んで行く。
 
郁が玄関へ着いた時、堂上はもうドアの内側から鍵をかけている所だった。
「お、おかえりなさい」
郁がおそるおそる、声を掛ける。
「ただいま」
郁の予想に反し、堂上は至って普通の様子で答えながら、靴を脱ぎ、家の中に入った。
至って普通……、そう、いつも通りに優しく笑って。
「あ、篤さん……、怒ってない……の?」
 
郁がおっかなびっくり、上目使いに堂上を窺う。
堂上が苦笑しながら、郁のおでこを突いた。
 
「怒ってた。怒ってたけどな……、もういい。もったいない」
「え?もったいない、って?」
 
「時間」
堂上はそう答えると、郁の手を取り、リビングに入って行く。
ソファに座り、郁も横に座らせる。
 
「郁。俺は何があろうとお前と別れるつもりはこれっぽっちもない」
郁が頷く。
郁だって堂上と別れるつもりなど全くない。
 
「だけど、ひとつだけどうしようもない事があるだろう?」
「え?」
「……人間、いつ死が訪れるのか誰にも分からない。病気、事故、災害。ましてや俺達は職業が職業だしな。勿論、何事もなくこのまま二人で年を重ねて行けたら一番いいと願ってはいるが、そうならない可能性は否定出来ない」
「……」
郁は顔を幾分強張らせ、頷いた。
出来る事なら考えたくもない事ではあるが、堂上の言う事は事実だ。
 
「だから折角二人で過ごせる時間を大切にしたい。喧嘩したままで過ごす時間をもったいないと思う」
郁は頷いて、堂上の肩に顔を落とした。
堂上が郁の頭に優しく抱き寄せる。
「始めっから喧嘩しないのにこした事はないんだろうが、俺は喧嘩するのは別にいいと思う。我慢するのも良くないしな。腹が立ったらお互い怒ればいいし、言いたい事言い合えばいい。だが、それを長引かせるのは止めよう。二人の時間が減るのはもったいないだろう?……大切な時間だ」
 
郁はこくこくと頷いた。
喧嘩したまま過ごす時間も二人の時間だと言えば、そうかもしれないが、やはり空気が違う。
お互いギクシャクもするだろうし、会話も殆どなくなるだろう。
そんな時間は少しでも少ない方がいいに決まっている。
堂上の言う通り、喧嘩している時間が長ければ長い程、その分、二人で過ごせる時間が減るのだ。
 
これから二人でどれだけの時間を過ごせるのか、それは誰にもわからない。
もし、どちらかが先に逝ってしまったとしても、お互いへの想いがなくなるとは思わない。
そういう意味では死さえも堂上と郁を別つ事は出来ないだろう。
だが、気持ちはどうあれ、実際に二人で時を過ごす事は出来なくなる。
“その日”が来るのが少しでも遅い様に願い、そして、今二人で過ごす時間を大切にする。
普段の生活の中で改まって考える事は今迄あまりなかったが、郁も心の底からそう思った。
 
「別に難しく考えんでもいいぞ。俺が言いたいのを要約すれば、喧嘩してもすぐに仲直りしよう、って事だ」
堂上が笑いながら言う。
 
「うん。わかった。……篤さん、ごめんね。今日のはあたしが悪かった。ごめんなさい」
堂上の肩から顔を離し、郁が堂上の顔を見て謝る。
 
「ああ」
堂上が笑い、郁を引き寄せ、抱き締める。
郁も堂上に体を預け、目を閉じる。
お互いの存在を確認しあうように。
 
「篤さん、先に御飯?お風呂?」
暫くして、郁が堂上に尋ねた。
「……そうだな、郁にする」
「は!?」
「だから、郁にする」
「いや、そんな選択肢はなかったから!」
「そうか?俺には聞こえたぞ?」
「ないよ!それ、篤さんの空耳だから!」
 
堂上が立ち上がり、郁をひょい、と抱き上げた。
「ちょっ、篤さん!」
「これも、大切な時間、だろ?」
「そ、そりゃ、そうだけど~」
 
堂上は郁を抱きかかえたまま、寝室へと入って行った。
 
 
 
 
  1. 2011/09/30(金) 07:00:00|
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