SS 「理由はいらない」

ご訪問、ありがとうございます。

今日は敬老の日ですね。
敬老の日、と言えば15日、のイメージがいまだに抜けません。他の祝日もそうだけど。
三連休だった方も多いのでしょうか?

今週末はまた三連休ですか。
今週末は色々と行事があるので、忙しくなりそうです(涙)

SS「理由はいらない」です。
恋人期間です。

続きからどうぞ!


理由はいらない                恋人期間
 
「笠原さん。話があるんだけど、ちょっといいかしら?」
事務室へ戻ろうとしていた郁に声を掛けてきた女性がいた。
「いいですよ」
「じゃあ、ちょっとこっちへ」
女性が歩き出したので、郁もその後ろをついて行った。
 
歩きながら、郁はこの人誰だっけ?と考える。
何度か寮で顔を見かけた様な記憶がある様な気もするが、定かではない。
さすがに防衛部の女子は殆ど顔と名前が一致するので、防衛部ではないだろう。
階級章は三正のものだったので、郁よりも先輩である事は間違いない。
 
一体あたしに何の用事があるんだろう?
郁が不思議に思っていると、その女性が歩みを止めた。
庁舎と庁舎の間、人気のない場所だ。
 
「あのお、あたしに話って……?」
郁が首を傾げながら尋ねた。
その女性はくるりと振り返った。
 
そして、にっこりと笑った。
「そうね、単刀直入に言わせてもらうわ。堂上二正と別れて頂戴」
「は!?」
「あら。聞こえなかったの?もう一度言うわ。堂上二正と別れなさい」
「な、なんでそんな事を見ず知らずの人に言われなくちゃなんないんですかっ!?」
「見ず知らず、って失礼ね。先輩に向かって。私は業務部の坂下香織。三正よ」
「い、いくら先輩だからと言っても、そんな事を言われる謂われはありません!」
 
「説明しなくちゃわからないのかしら?あなたは堂上二正にはふさわしくないわ。あんたみたいな大女!しかもガサツで女らしさの欠片もない様なあんたが堂上二正の彼女だなんて!あんたなんかより私の方がよっぽど堂上二正にふさわしいわ!だから大人しく堂上二正と別れなさいよ!!」
最初は上品そうに話していたものの、段々激昂してきたのか、坂下の口調はどんどん荒くなっていった。
郁は唇を噛みしめた。
どうして、突然こんな事を言われなければならないのか。郁は怒りを覚えるが、同時に言われた言葉が郁の心に突き刺さる。
“大女”“ガサツ”“女らしくない”
それは郁がいつも気にしているフレーズで。
だけど。
 
郁は昂然と坂下をまっすぐに見据えた。
「確かにあたしはこんな大女で女らしくもありません。堂上教官にふさわしくない、と言われたら、そうなのかもしれません。……でも、あたしは誰に何と言われたって、堂上教官の事を好きだ、という気持ちは変わりません。あたしが堂上教官と別れるとしたら、堂上教官に直接別れたい、と言われた時だけです」
 
そう、他人に何を言われても揺らがない、と決めた。
誰が何と言おうと、あたしは堂上教官の事が好きだ。
その気持ちは誰にも変える事など出来ない。
 
「ふさわしくない、ってわかってるのに、別れない、って言うの!?なんてあつかましい女なの、あんた!」
「……坂下三正は、堂上教官の事、好きなんですか?」
「そうよ!悪い!?」
最早、逆上していると言っていい坂下を見つめながら、郁は、静かに首を振った。
 
「……悪くなんてありません。人を好きになるのに、悪いも何もありません。ただ、堂上教官が好きなのなら、堂上教官に告白した方がいいと思います」
「……何よ!堂上二正が自分以外の女には靡かない、とでも思ってるの!?凄い自信ね」
坂下がもの凄い形相で郁を睨み付ける。
 
「自信なんて、そんなものありません。……ただ、あたしに言われても、あたしは堂上教官と別れる気はありませんし、本人に直接告白した方がいい、と思っただけです」
 
自信なんてない。
堂上が郁の事を好きでいてくれて、とても大切にしてくれている、という事はもう充分理解している。
でも、だからといって、自信が持てるか、と言われれば、それはまた別問題だ。
目の前の坂下は小柄で体型も華奢だ。
顔もなかなか整っている。
外見上の事だけを考えれば、どう見ても堂上の横に立ってお似合いなのは坂下の方だろう。
坂下に告白されて、堂上の気持ちが坂下の方を向いてしまったら?
という不安が全くない、とは言えない。
だが、郁にはそれ以外に坂下に言う言葉が見つからない。
 
「余計なお世話よ!とにかくあんたは堂上二正と別れたらそれでいいのよ!」
「別れる気はありません、と言った筈です」
「……あんたさえいなきゃ、きっと堂上二正は……!!」
坂下の言葉が途中で止まり、表情が凍りついた。
郁の後ろにあった木の陰から誰かが出てきた様だ。
郁が振り返ると、そこに立っていたのは。
 
「堂上教官!……いつからそこに!?」
「……堂上二正と別れて、って所からか」
「って!最初からじゃないですか!!」
「悪い。立ち聞きするつもりはなかったんだが、出るタイミングが、な」
堂上がバツが悪そうに答える。
 
郁が見知らぬ女と人気のない方に歩いて行くのが見えた。
なんとなく、嫌な予感のした堂上は後を追いかけた。
坂下の第一声が聞こえたのはまだ二人からは少し遠い距離の時だった。
気配を殺し、近付いたが、出るタイミングを失い、結局ずっと立ち聞きをする破目になった。
 
坂下は堂上がずっと話を聞いていた事に対し動揺を隠せず、顔面は蒼白になっていた。
堂上が視線を坂下に向けた。
鋭い、冷たい瞳だ。
「で、まだ俺に言いたい事はあるのか?」
 
確かに今迄の会話を聞かれていたのなら、もう望みはない。
ただでさえ、最初っからなかっただろう望みは最早完全に断ち切られた。
だけど、諦めきれない。坂下は力を振り絞って、口を開いた。
「私は堂上二正の事が好きです!笠原さんと別れて私と付き合って下さい!」
「断る。俺はこいつ以外と付き合うつもりは全くない」
堂上は即答した。瞬殺だ。
坂下は唇を噛みしめる。
「……私の方が、堂上二正と似合う筈です!」
堂上が苛立たしげに顔を顰めた。
「……似合う、とか似合わんとか、ふさわしい、とかふさわしくない、とか、なんでそんな事を他人に言われなきゃならない?そんな事は俺が自分で決める」
 
坂下は悲壮な顔で叫ぶ。
「どうして!?どうして、笠原さんなんですか!?」
「どうして?人を好きになるのに理由なんかいるのか?もちろん、こいつの好きな所を挙げろ、と言われたらいくらでも挙げる事は出来るがな。それが理由でこいつの事を好きになった訳じゃない。理由なんかいらない。俺はこいつが、笠原郁が好きだ。ただそれだけだ」
 
「他に言いたい事は?」
もう坂下には言うべき言葉は何も残されていない。坂下は最早、声を出す気力もないらしく、力なく首を振った。
 
「念の為に言っておくが、もしこいつに何かあったら、俺は相手が誰であろうと容赦はしない」
堂上が鋭い瞳で坂下を見据えながらゆっくりと告げた。
坂下は体が竦んで動けない。頷く事すら出来なかった。
 
「行くぞ、郁」
堂上が郁の手を取り、歩き出す。
言葉を発する事なく、堂上と坂下のやり取りをただ聞いていた郁は堂上に引っ張られるまま、歩き出した。
 
堂上と郁が立ち去った後も坂下はしばらく立ち竦んだままだったが、何分か経った後、漸く呪縛が解けた様にへなへなとその場に座り込んだ。
坂下の瞳から涙が零れ落ちる。
 
……わかっていた。
坂下が堂上を好き、という気持ちは本当だった。
だからこそわかっていた。
堂上がどんなに郁の事を大事に思っているか。
堂上に告白しても望みなんかない事も。
坂下の感情は負の方向にシフトした。郁に対して、妬ましい気持ちがどんどん育って行った。
郁さえいなければ。郁の方から堂上と別れてくれれば。
そう思い詰める事を止める事が出来なかった。
 
……でも、もう終わり。
これだけ完璧に玉砕したら諦めるより他にどうしようもない。
坂下は長い時間、その場で静かに涙を流し続けた。
 
「き、教官、どこへ行くんですか?」
堂上が郁の手を持ったままずんずんと進んで行くのは、特殊部隊の庁舎とは全然違う方向だ。
堂上は立ち止まり、振り向きざまに郁をきつく抱き締めた。
「郁。……すまん」
突然の抱擁に一瞬驚いた郁だったが、堂上の背中にそっと手を回した。
「……教官が謝る事なんか、何もないです」
「俺のせいで、あんな悪意を向けられた」
「平気です。なんともない、って言ったら嘘になるかもしれないけど、でも、大丈夫です」
堂上が抱き締めている腕を少し緩めて郁と視線を合わせた。
 
「あんな悪意を向けられたのに、お前は少しも揺らがなかった。それが嬉しかった、と言ったら、お前、怒るか?」
郁が“女”としての自分にコンプレックスを持っている事は堂上も承知している。
でも、そこを突かれても郁は揺らがなかった。
それは堂上にとってはとても嬉しい事だった。
 
郁はふるふると首を振った。
「怒りません。……あたしも嬉しかったから」
堂上の自分に対する愛情は理解している。
でも、堂上は、はっきり言葉に出してくれる事は滅多にない。
だから、堂上が坂下にはっきりと言い切ってくれた時は嬉しかった。
坂下の気持ちを考えると、心は痛んだが、嬉しい気持ちの方が大きかった。
 
「そうか」
堂上はもう一度郁をぎゅっ、と抱き締めた。
「郁。お前は俺が別れたい、って言ったら別れる、って言ってたな。だが俺は、例えお前が別れたい、って俺に言ったとしても別れてなんかやらないからな。覚悟しろよ」
 
「……あたしが堂上教官に別れたい、って言うなんて有り得ませんから!」
「俺がお前に別れたい、って言うなんて事も有り得ない」
 
堂上と郁は目を見合わせ、笑った。
「じゃあ、俺達が別れる、って事態は有り得ない、って事だな」
郁は嬉しそうに笑うとコクンと頷いた。
そして、どちらからともなく唇が重なる。
 
ちっとも事務室に帰って来ない二人を心配して、小牧が堂上の携帯を鳴らす迄、後五分。
 
 
 
  1. 2011/09/19(月) 07:00:00|
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