SS 「階段」

ご訪問ありがとうございます。

「海水浴」からINDEXに追加するの忘れてました(汗)
昨日、追加しました。
INDEX、長くなってきたなあ、と思ったりしたんですが、どうでしょう?
そろそろ分けた方がいいですか?

SS「階段」です。時期は上官・部下で県展後です。
毎度言ってる様な気がしますが、例によってタイトルが全然思い浮かばなかった……。

続きからどうぞ!


階段                     上官・部下
 
堂上と郁のバディで館内を巡回中の時の事だった。
 
「堂上教官!子供がっ!!」
郁が声を上げた。
郁の視線の先にあったのは、よちよち歩きの小さな男の子がおぼつかない足取りで階段の方へ向かおうとしている姿だった。
 
言い終わるよりも先に郁は動き出していた。
堂上も男の子の姿を認めるとすぐに郁の後に続く。
ほぼ同時に母親らしき女性も、自分の足元にいるとばかり思っていた我が子がひとり階段の方へ向かっているのに気付き、悲鳴を上げ、男の子の名前を叫びながら後を追う。
 
郁が一番早く階段の踊り場に到着したが、一瞬遅く、男の子は階段の滑り止めに足を引っ掛け、正に宙に浮いた瞬間だった。
 
郁は何も考えずにただ、男の子に向かって手を伸ばす。
届いた!
男の子の腕を掴んだ郁は男の子を踊り場の方へ投げる様に引き戻した。
目の端に男の子の身体を母親らしき女性が受け止めたのを確認出来た。
が、その瞬間、自分の身体が宙に浮いているのを自覚した。
駄目だ、落ちる!
 
諦めたその時、もの凄い力で引き戻された。
男の子の様に踊り場まで戻される事はなかったが、気が付いたら目の前に手すりがあったので、反射的に手すりを掴む。
そして、何かが階段から転がり落ちて行く音がした。
 
「堂上教官!!」
郁が悲鳴を上げる。
 
郁が男の子にしたのと同じ様に、郁が落ちる瞬間に飛び込んで郁を引き戻し、そして、郁の代わりに堂上が階段から転がり落ちたのだ。
 
郁が慌てて階段を駆け下り、倒れている堂上のもとに向かう。
「教官!堂上教官!!」
郁の悲痛な叫びにも堂上の返答はない。
意識を失っている様だ。
 
騒ぎを聞きつけ、小牧と手塚もその場に駆けつけた。
「笠原さん、落ち着いて!」
小牧に強く諭されたが、郁の動揺は収まらない。
 
あたしのせいで、堂上教官が……!
 
「手塚、足の方持って。救護室に運ぶ」
「はい!」
手塚が素早く、堂上の足元に回る。
 
駆けつけてきた防衛員に小牧が動揺している親子への対応を指示する。
「笠原さんもついて来て」
手塚と二人、堂上を抱えた小牧が郁に指示する。
「は、はいっ」
 
堂上を救護室へと運び込む。
在室していた医師に小牧が状況を的確に説明した。
郁はただ、真っ白な顔で、ひたすら堂上を見つめている。
 
「うん、ちょっと脳震盪起こしただけだと思うわよ。堂上君の事だから、咄嗟に受け身はとってるだろうし、大事ないと思うわ」
医師の言葉に、小牧と手塚は、安堵の溜息を吐いた。
 
「ただ、私、これからちょっと講習会があって、外出しないといけないのよ。多分大丈夫だとは思うんだけど、誰か堂上君の目が覚める迄ついててあげる事は出来るかしら?」
「わかりました。笠原さん、堂上についててくれる?」
小牧が医師の言葉を受け、即座に郁に問い掛ける。
「……はい!」
郁にとっても願ってもない申し出だった。
このまま仕事に戻っても、堂上の様子が気になって気になって、とても仕事にならないだろう。
 
医師は堂上の様子で注意する点などを、郁に申し渡した後、外出した。
「じゃあ、俺達も仕事に戻るから。笠原さん、後お願いするよ。また俺も様子見に来るけど」
「はい」
 
小牧と手塚が部屋から出て行った後、郁は堂上が寝かされているベッドの横の椅子に腰を掛けた。
祈る様に、堂上を見つめる。
堪えていた涙が零れ落ちた。
 
教官、あたしのせいで。
ごめんなさい、ごめんなさい!
医師は脳震盪を起こしただけだ、と言っていたが、郁の不安は拭い切れない。
頭を打っているのだ。
もし、このまま堂上の目が覚めなかったら……!
言いようのない恐怖が郁を襲う。
堂上教官、お願い、目を覚まして下さい!
 
 
堂上が目を開けると、白い天井が目に入った。
堂上は記憶を探る。
ああ、そうか。俺は階段から落ちたんだな。
と、いう事はここは救護室か、と堂上はゆっくりと上体を起こした。
 
ベッド脇の椅子に腰かけ、ベッドに突っ伏している郁に気が付き、堂上はぎょっとする。
「笠原?」
低く呼びかけるが、郁の返事はない。
突っ伏しているので、郁の表情も見えない。
 
恐らく眠っているであろう郁を起こすべきか、と堂上が思案していると、カーテンが開いて、小牧が顔を覗かせた。
 
「堂上。目が覚めた?具合はどう?」
「ああ。大丈夫だ」
「吐き気とかめまいもない?」
「ああ」
「他に痛む所は?」
小牧に言われ、堂上が体を軽く動かし、点検する。
「……左肩が少し痛むが、単なる打撲の痛みだ。大した事はない」
「そうか。良かった。……笠原さん、寝ちゃったんだね。泣き疲れたのかな?」
「……こいつ、泣いてたのか?」
「いや。俺らがいる前では泣いてないよ。でも、必死で堪えている様子だったし。自分のせいで、堂上が階段から落ちた、って責任感じてたからね。多分、俺らが出て行った後、泣いちゃったかな、と」
「……そうか」
堂上が郁の頭に目を落とす。
 
「堂上。……可愛いね、笠原さん」
「ああ」
即答した堂上に小牧は驚いて一瞬目を見開いた。
まさか、堂上があっさり肯定するとは思ってなかった。
県展から帰ってきて以来、堂上の心境に変化があったのは、小牧も当然気が付いてはいた。だが、下手に突いて堂上がまた頑なになっても困ると思い、敢えて触れないでいた。
この様子ならもう、小牧がいくら突こうとも心配ないかもしれない。
郁を見つめている堂上の瞳の色を見ながら、小牧はそう思い、うっすらと微笑んだ。
 
「じゃあ、俺は帰るから。あ、緒形代理から伝言。今日はもう仕事せずに帰れ、って」
「わかった」
堂上が苦笑で答える。
 
小牧が部屋から出て行ってから、堂上は郁の頭に手を載せた。
そして、優しく撫でる。
何度目かに郁が身じろぎした。
 
それでも、堂上が手を止めずに撫で続けていると、郁ががばり、と頭を上げた。
「あたし!?寝てた!?ど、堂上教官!大丈夫ですか!?」
郁は自分が寝ていたらしい事に動揺したが、堂上の顔を見るなり、堂上に詰め寄った。
やはり、小牧の推測は正しかった様だ。郁の目には泣き腫らした跡があった。
 
「大丈夫だ。心配掛けたな」
「本当に大丈夫ですか!?痛い所とかないですか!?」
「ああ。どこも何ともない」
堂上が郁を安心させる為に、笑って答える。
「良かったあ~」
郁は安堵でまた涙が出そうになる。
 
「堂上教官、すいませんでした。あたしのせいで……」
「別にお前のせいじゃない」
堂上が即答する。
 
「でも!あたしが考えなしに突っ込んだせいで……!」
「まあ、お前が考えなしだ、って所は否定しないがな。でも、あの時、お前が突っ込んでいなかったら、間に合わなかった。あの子は階段から落ちてた。だから今回はむしろお手柄だろ?」
「でも、堂上教官が落ちたのはあたしのせいです」
「あのなあ。……じゃあ、もし、あの時お前が階段から落ちたとする。お前が助けた子供が、僕のせいでお姉ちゃん階段から落ちてごめんね、って言ってきたらどうする?そうよ、あんたのせいで落ちたのよ、って責めるのか?」
「まさか!そんな事言う訳ないじゃないですか!」
「じゃあ、なんて言う?」
「……え~と、君のせいじゃないよ。お姉ちゃんが君の事助けたいと思っただけだよ。君が階段から落ちなくて良かった、ってお姉ちゃんは思ってるよ、とか……」
 
「俺も一緒だ。……お前が階段から落ちなくて良かった」
「……堂上教官」
堪え切れずに郁の瞳から涙が零れ落ちる。
 
堂上がまた郁の頭に手を載せた。
「お前を助けたかったのは俺の勝手だ。そんで受け身を取り損ねたのは俺のミスだ。だから、お前はもう気にするな。ほら、泣きやめ」
堂上が郁の頭を軽くぽん、と叩く。
 
今、郁が泣いているのは、自分のせいで堂上が落ちた、という自責の為だけではない。
堂上の言葉のせいだ。
 
その事に気が付いているのかいないのか、堂上は郁が泣き止むまでずっと、郁の頭を撫で続けた。
 



  1. 2011/08/22(月) 07:00:00|
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