SS 「海水浴」 3

ご訪問、ありがとうございます!

ほっと文庫、なんとか手に入りそうです。
昨日、あちこち電話しまして、やっとひとつだけ見つかりました!
他にもほっと文庫取り扱っている所、2件程あったんですが、「ゆず、香る」は売り切れ、との事でした。
有川先生、凄い人気だなあ、と改めて実感……!

「ゆず、香る」があったのは家からはかなり遠い店舗だったので、家から近い店舗で受け取れる様にします、との事なので、2~3日かかるみたいですが、なんとか確保出来たので、一安心です♪

「海水浴」3です。最終話です。ちょっと長めです。
続きからどうぞ!



 海水浴 3                    上官・部下

救護所に着き、早速診てもらう。
「あ~、クラゲに刺されたのね。触手、残ってたら危ないから取るわね」
救護所に居た女性が、郁の左足にペットボトルから透明な液体を掛けながら、軍手をはめた手で、刺し後をなぞる様にした。
「それは水ですか?」
心配そうに様子を見ている堂上が尋ねた。
「海水よ。真水で洗うと駄目なの。後、触手が残ってる事もあるから素手で触っても駄目よ」
「そうなんですか」
「さあ、これでいいわ。このクラゲは毒性強くないから大丈夫だと思うけど。心配なら氷とかで冷やしておくといいわ。もし、腫れとか痛みがあんまりひどい様なら皮膚科に行って診てもらってね」
「じゃあ、腫れとか痛みが特に酷くならなければ、心配ない、という事ですか?」
堂上が確認する。
「そう。このクラゲの場合は大概の人が大丈夫なんだけど、体質によって、腫れたり痛んだりする人がたまにいるのよ。だから、その場合は病院に行った方がいいと思うけど、そうでなければ特に病院に行ったりしなくても大丈夫よ」
堂上が安心した様に微笑んだ。
「ありがとうございました」
郁と堂上が礼を言い、救護所を出た。
 
出た所で、郁が堂上にも礼を言っていると、手塚と柴崎がやって来た。
「どうでした?」
「ああ。幸い毒性は強くないクラゲだったみたいだ」
「そうですか。良かったわね、笠原」
柴崎も手塚も安心した様に笑う。
「うん。心配掛けてごめんね」
「堂上二正、足の裏大丈夫でしたか?サンダル持ってきました」
手塚が二人のビーチサンダルを足元に置いた。
郁を早く救護所へ運ばなければ、と必死だったので、余り気にならなかったが、確かに強い日差しで熱せられた砂浜の砂は熱かった。
「すまん。助かった」
「ありがとう!」
堂上と郁が礼を言い、ビーチサンダルを履く。
 
「それにしても凄かったですね、堂上教官。ビーチ中注目の的でしたよ?」
先程、郁をお姫様抱っこで搬送した事だろう。
「……仕方ないだろう。緊急事態だ」
思わず、郁の素肌の感触を思い出しそうになり、堂上は慌てて記憶を頭の中から追い出そうとする。
緊急事態だったのだから仕方ない、堂上は自分にもそう言い聞かせる。
 
郁としてもその件についてはあんまり触れて欲しくはない。
思い出すだけでも顔が火照ってくる。
不機嫌そうな表情になった堂上と顔の赤くなった郁を面白そうに眺めた柴崎は、それ以上追尾しなかった。
 
そして、四人でパラソルの所まで戻る。
途中で堂上が郁に釘を刺した。
「お前はもう海には入るなよ」
「わかってます……」
郁が幾分しょんぼりと答える。
そんなにひどい痛みはないが、まだ刺された所はピリピリとしている。
もうちょっと遊びたかったけど、仕方がない。
 
パラソルに戻ると、小牧と毬江も戻って来て休憩していた様だ。
「どうしたの?」
小牧と毬江に事情を説明する。
 
「そうかあ。大変だったね。でも毒性の強くない奴で良かったね」
「笠原さん、大丈夫ですか?」
毬江が心配そうに郁に尋ねる。
「ありがとう。大丈夫!でも海にはもう入れないので、みんなは気にせず遊んで来て下さい。あたしはここで待ってますから」
 
もう後一時間程したら帰らなければならない時間だ。
折角来たのだから、みんなには海水浴を満喫してもらいたい。
郁に気を遣いながらも、小牧と毬江、手塚と柴崎が海に入って行った。
 
あれ、堂上教官は?
 
郁が辺りを見回す。
堂上の姿が見えない。確かに一緒に戻ってきた筈なのに。
トイレにでも行ったのだろう、と郁はパーカーを羽織り、シートに腰を下ろした。
 
「ねえ、彼女。何人で来てるの?俺達4人で来てるんだけど、一緒に遊ばない?」
突然声を掛けられた。
郁が返事をする暇もなく、郁の傍にしゃがみ込み、さらにまくしたてる。
大学生位だろうか。髪を染めた今時の若者の典型みたいな男だった。
 
「君、すごい綺麗な足してるね~!モデルみたいだね。年はいくつ?俺らは21歳なんだけど。どこの大学?」
質問しながらも、郁に口を開く隙を与えず、自分一人でペラペラと喋っている。
「とりあえず、友達に紹介するからさ、俺と一緒に来てよ」
男がそう言い、郁に手を伸ばそうとしたその瞬間。
 
「おい、俺の連れに何か用か?」
地を這うような低い声が背後から聞こえた。
男が吃驚して振り返る。
そこに立っていたのは勿論堂上だった。
かき氷を手にした堂上が男を睨みつけている。
すごい迫力だ。
男は竦み上がった。
「す、すいません。お連れがいたんですね。失礼しました」
男は堂上の眼光の鋭さと、滲み出る殺気と言っていい程の迫力。そして、鍛え上げられたその肉体に恐れをなし、逃げる様に慌てて立ち去った。
 
「堂上教官」
郁がホッとした様に呟く。
堂上も緊張を解いた。
「全く、油断も隙もあったもんじゃないな」
堂上が呟く様に言い、郁にかき氷を手渡した。
「ほら」
「わあっ!いいんですか?嬉しいです!」
郁が嬉しそうに笑い、かき氷を受け取る。
堂上は更に郁に袋に入った氷を渡す。
「これで足冷やしとけ」
郁の為に氷を貰って来てくれたらしい。
「あ、ありがとうございます!」
 
わざわざあたしの為に氷貰って来てくれたんだ……。
海に入れない事に気を使ってくれたのだろう、かき氷まで買って来てくれて。
郁の胸がきゅん、と鳴る。
 
「痛みの方はどうだ?」
「あ、大分マシになりました」
「今の所、腫れてきたりもしてないようだな」
「はい!」
「まあ、念の為冷やしておいた方がいいだろう」
 
郁は足に氷の入った袋を乗せた。
堂上も郁の横に腰を下ろした。
「頂きます」
郁はかき氷を食べ始めた。
堂上はスポーツドリンクのペットボトルを開けた。
 
「あ、教官も海行って来て下さい。あたし待ってますから」
「……いや、俺ももういい」
「どうしてですか?もうすぐ帰んなきゃなんないのに。あたし一人で大丈夫ですから行って来て下さい」
「ほんのちょっと目を離した隙に早速声掛けられてただろうが!お前一人で置いておけるか!元々俺と手塚が来たのは、お前と柴崎をガードする意味もあるんだからな」
「で、でも、堂上教官にもちゃんと楽しんで欲しい、って言うか……」
堂上が少し顔を緩めた。
「充分、楽しんだから心配するな」
「ホントですか……?」
「ああ。楽しかった。ほら、早く食わないとかき氷融けるぞ」
「は、はいっ!」
 
そうして、結局みんなが戻って来るまで、堂上と郁は二人で並んで座り、海の様子を眺めながら、喋っていた。
他愛のない話ばかりだったが、郁にとっては海で遊んでいる時以上に楽しい時間となった。
 
小一時間程が過ぎてみんなが戻ってきた。
柴崎と小牧の顔がやけにニヤニヤしているのに、郁は気付かない。
おかえりなさい~、と上機嫌でみんなを迎えている。
堂上は二人の思わせぶりな表情に気付き、軽く顔を顰める。
何か口を開くと藪蛇になるのは今迄の経験上明白だ。
堂上は押し黙った。
 
「あら。海へ入れなくて落ち込んでるかと思ったのに。嬉しそうね、笠原」
「えっ!?いや、そりゃ残念だったよ?」
まさか、海へ入っているより堂上と並んで話していた時間の方が楽しかった、と言う訳にはいかない。
「そう?やけに楽しそうな顔してるわよ」
「……か、かき氷!堂上教官がかき氷買ってくれたの!それが美味しくて!」
「そうなの。それは良かったわね」
柴崎はにっこり笑って話を収めた。
郁はなんとか誤魔化せたか、とホッとして笑う。
 
「遠くからでも分かったよ、堂上の迫力」
小牧が堂上にだけ聞こえる様、小声で言った。
「……見てたのか」
「もちろん。堂上が間に合わなかったら、手塚に行ってもらうつもりだったし」
「そうか」
「でも、俺らが離れて、堂上が戻って来る迄、ほんのちょっとだったのにな。彼女達からこんな場所で片時でも目を離したら駄目だ、って実感したよ」
小牧が軽く肩を竦める。
小牧はちょっと神経質に思える位、毬江の傍から片時も離れなかったが、それで正しかった、と実感した。
この人数で来て正解だったかもしれない。二人きりで来ていたら、おちおちトイレにも行けなかった所だ。
 
「そろそろ片付けますか?」
手塚が堂上と小牧に尋ねる。
「そうだな」
 
名残惜しいが、そろそろ帰らないといけない時間だ。
それぞれ荷物をまとめ始める。
郁はほんの少しだけ寂しそうに海を眺めた。
 
「名残惜しいのか?」
「ちょっと……。楽しかったから、もう終わりなのが淋しいなあ、って」
「……また来ればいいだろ」
「そうですね!また来年も来たらいいんですよね!……堂上教官、来年も一緒に来てくれますか?」
その言葉は自然に郁の口をついて出た。
「ああ」
堂上は即答してくれた。
 
郁がさっきの寂しげな表情が嘘の様に、嬉しそうに笑った。
郁の笑顔を見て、堂上も微笑んだ。
 
来年の夏、海に行くどころか堂上はずっと入院中で、そして二人の関係が恋人同士になっている、などとこの時の二人は知る由もなかった。
 
 




 
 
  1. 2011/08/09(火) 07:00:00|
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